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“システムレベル”睡眠学研究

コンディショナル遺伝子導入を利用した、行動を制御する神経回路の遺伝学的分析

薬理学的手法や、恒常的な遺伝子欠損を伴う遺伝子改変動物は、睡眠覚醒調節の分子メカニズムの全体像を明らかにするために非常に有用である。しかし、分子生物学の急速な発展により、空間的に高解像度な解析を可能とする様々な新しい技術が、睡眠研究に導入されている。このような技術の例として、Cre/LoxP技術を利用したRNA干渉法によるコンディショナル遺伝子欠失があり、in vivoで、自由行動動物の神経の可逆的発現抑制(例:非哺乳類のクロライドチャネル)や活性化(例:刺激型の合成GPCR)をすることができる。

我々は、睡眠に関与するPGD₂が合成され、作用する部位の特定に取り組んでおり、L-PGDSやDP₁R の遺伝子をCreリコンビナーゼによりコンディショナルに欠失させたマウスを作製した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの下流にCreリコンビナーゼを搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV)を、全脳基底核下のくも膜下腔に微小注入することで、軟膜でのLPGDS/ PGD₂/DP₁R システムの機能を試験することができる。また同様に、新生マウスの側脳室を介して脳脊髄液に直接AAV-Creを微小注入することもできる。軟膜、脈絡層及びオリゴデンドロサイトにおける睡眠の神経回路と液性因子との関連を制御する空間的メカニズムの研究や、睡眠を誘発するPGD₂の放出部位の特定に、LPGDS/ PGD₂/DP₁Rシステムをコンディショナルに欠失したマウスは有用である。

また、我々はシステムズ睡眠学に向けた新技術として、AAVを用いて睡眠関連遺伝子に対するshort hairpin RNA(shRNA)を導入して、その発現を抑制する局所的RNA干渉法(fRNAi)を開発し、AAV感染部位において、様々な“睡眠遺伝子”の発現がそれぞれのshRNAにより効率的に抑制されることを見出した【図1】。定位的なAAVの微小注入は、組織の損壊を最小限に抑え、広範囲の神経への導入を可能とする。現在、大脳基底核においてアデノシンA₂ᴀ受容体及びドパミンD₂受容体、結節乳頭核において小胞型ATP受容体(VNUT)、アデノシンデアミナーゼ及びヒスチジンデカルボキシラーゼ、さらに中脳、視床及び前頭皮質のGABA及びグルタミン酸の小胞型トランスポーターの局所的遺伝子操作を行っており、睡眠覚醒調節におけるその効果を調べている。この局所的ノックアウト法は、複雑な構造を有する脳において、様々な受容体の機能を神経解剖学的に解明する実験に、広範囲に応用可能である。(Lazarus, M. et al. Nat Neurosci. 10, 1131-1133, 2007).

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例を挙げると、興奮や覚醒作用のある物質として世界で広く用いられているカフェインが覚醒作用を及ぼす神経細胞の同定を、fRNAiを用いて行っている。我々は、側坐核(NAc)特異的にA₂ᴀ受容体を欠失させるとカフェインの覚醒効果が消失することを見いだした。この結果より、これまで自発運動や情動行動との関連で語られてきた神経が、カフェインにより活性化されることが初めて明らかとなった【図2】

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(社)予防衛生協会研究支援企画部との共同研究による“トランスレーショナルリサーチ”において、我々はRNAiを搭載したAAVを脳内局所注入し、パーキンソン病治療のモデルとしての非ヒト霊長類(NHP)モデルを開発中である。神経疾患に関連する受容体の局在を知ることで、より特異性の高い遺伝子治療の開発が可能となる。神経疾患時、多くの副作用のある治療薬全身投与に対し、脳内局所の遺伝子ブロックだけで症状を緩和・除去できる可能性がある。重篤な神経疾患患者へのこれまでの薬物の慢性的な全身投与に替わる、AAVベクターを用いたRNA干渉法による遺伝子治療法を提供できる。

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