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睡眠覚醒調節の分子機構

プロスタグランジンD₂(₂)は、ほ乳類の脳内において産生される主要なプロスタグランジンであり、自然な睡眠を引き起こす内因性の睡眠物質である。一方、プロスタグランジンE₂(PGE₂)は、覚醒を促す物質である。PGD₂は前脳基底部クモ膜細胞に存在する睡眠調節に関わるDP1受容体に結合してアデノシンを遊離させる。遊離アデノシンは、前脳基底部に局在するアデノシンA₂ᴀ受容体を発現している神経を刺激し、その結果、睡眠調節中枢と考えられている腹側外側視索前野(VLPO)の活動を亢進させ、同時にGABA作動性神経を介して、結節乳頭核(TMN)の活動を抑制することにより睡眠を誘発する。一方、PGE₂、オレキシンとシプロキシファンは、このヒスタミン神経系を活性化して覚醒を起こす。(Urade and Hayaishi. Future Neurology, 2010)

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アデノシンは、睡眠を誘発する抑制性の神経調節物質である。アデノシンによる睡眠誘発には、A₁受容体とA₂ᴀ受容体が関与すると考えられる。A₂ᴀ受容体作動薬(CGS21680)を前脳基底部クモ膜下腔や外側視索前野へ投与すると、A₁作動薬の投与では明確な効果が見られなかったことに対して、強力なノンレム睡眠を誘発することから、アデノシンA₂ᴀは睡眠調節に重要な役割をしていることを示している。カフェインはA₁受容体とA₂ᴀ受容体にそれぞれ同程度の強さで結合するアデノシン受容体拮抗薬である。当研究室では遺伝子操作マウスを使用して、カフェイン投与により野生型マウスとA₁受容体欠損マウスでは覚醒が誘発されたが、A₂ᴀ受容体欠損マウスでは効果がなかったことを実証した。この結果から、カフェインによる覚醒効果が、A₁受容体ではなくA₂ᴀ受容体の阻害によるものであることが明らかとなった。さらに、Cre/loxP技術と局所的RNA干渉に基づいた選択的遺伝子欠損法を用いて、側座核におけるA₂ᴀ受容体がカフェインによる覚醒効果に関与していることが明らかとなった(Lazarus et al., J.Neurosci.In press).

睡眠誘発に関与するA₂ᴀ受容体は、新線条体、側座核、嗅結節においてドーパミンD₂受容体と共発現することが報告されている。当研究室では、睡眠覚醒調節におけるD₂受容体の機能を調べるため、D₂受容体欠損マウスの睡眠覚醒プロファイルを、生理的条件下、および生理食塩水投与またはケージ交換による刺激を与えた後測定した。野生型マウスと比較してD₂受容体欠損マウスは、生理的条件下において覚醒量の減少およびステージ移行数の増加を示し、刺激後の睡眠潜時が短縮し、ドーパミン作動神経伝達の亢進後に覚醒効果が減弱し、断眠後に同程度の睡眠リバウンドを生じた。これらの結果は、D₂受容体が覚醒の維持に重要であり、また睡眠の恒常性調節機構に関与しないことを示している(Quet al., J Neurosci. 2010)。 A₂ᴀ受容体の活性が睡眠を強力に誘発するのに対して、D₂受容体は覚醒の維持に深く関与している。そのため、A₂ᴀ受容体とD₂受容体は睡眠・覚醒調節において異なった作用で関与していると言える。

当研究室では、A₂ᴀ受容体の活性化により睡眠が誘発されることを報告した。しかし、アデノシンがA₁受容体を介して覚醒系の神経を抑制し睡眠を誘発することも考えられる。TMNはヒスタミン神経系の起始部であり、アデノシンの分解酵素であるアデノシンデアミナーゼ(ADA)が最も多く分布する部位でもある。ラットのTMNにADA阻害剤であるコフォルマイシンやA₁受容体作用薬であるN6-シクロペンチルアデノシン(CPA)を投与すると用量依存的にノンレム睡眠が増加した。免疫組織化学的にA₁受容体の発現を調べると、ヒスタミン神経細胞体に発現していた。マイクロダイアライシス法により、コフォルマイシンやCPAがTMN神経の活動を抑制し、前脳皮質でのヒスタミンの放出量を抑制することが分かった。また、コフォルマイシンやCPAによるノンレム睡眠量の増加は、A₁受容体拮抗薬の同時投与により阻害された。これらのことから、TMNにおいてアデノシンがヒスタミン神経に発現するA₁受容体を介してその活動を抑制することにより睡眠を誘発することが明らかとなった(Oishi, et al., PNAS, 2008)。

アデノシンやA₁受容体作動薬を前脳基底部やTMNへ局所的投与するとノンレム睡眠量が増加したが、マウスの側脳室にA₁作動薬を投与してもノンレム睡眠量もレム睡眠量も変化しなかったことから、他の脳領域におけるA1受容体の活性は覚醒を引き起こすことが考えられる。A₁受容体作動薬であるCPAをVLPO内へ微小投与すると、覚醒の増加に付随してノンレム睡眠とレム睡眠の減少を引き起こす。VLPOにCPAを局所的投与すると、6時間断眠後の回復睡眠中にノンレム睡眠のデルタパワー値が減少した。一方で、A₁受容体拮抗薬である1.3-ジメチル-8-シクロペンチルキサンチン(CPT)をVLPOに微小投与すると、ノンレム睡眠・レム睡眠ともに増加した。これらのことより、VLPOでのA₁受容体の活性は覚醒を増加させ、睡眠・覚醒サイクルにおけるアデノシンによる効果は場所や受容体に依存することが推測される(Yue et al., 投稿準備中)。

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