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プロスタグランジンD合成酵素の病態への関与

我々は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者および多発性筋炎患者の筋肉でH-PGDSの発現が増強していることを偶然に発見した(Okinaga, T., et al. Acta. Neuropath., 2002)。さらに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルマウスであるmdxマウスにおいても壊死筋領域でH-PGDSが発現することや、ヒト型H-PGDSを大量に発現するトランスジェニックマウスを用いた筋壊死モデル実験では筋壊死が増悪することを証明した。そして、mdxマウスや、麻酔薬ブピバカインの筋肉注射による実験的な筋壊死モデルマウスにH-PGDS 阻害剤HQL-79を投与すると、壊死領域が減少することを見出した(Mohri, I., et al. Am. J. Pathol., 2009)。これらの結果は、PGD₂の産生が筋壊死の病態の進行に重要な役割を果たすことを示している。これらの研究成果に基づき、平成18年度より5年間、(独)医薬基盤研究所・保険医療分野における基礎研究推進事業の研究課題として「組織損傷の分子機構の解明とそれに基づく新たな治療法の開発」が採択された。

本研究の目的は、筋ジストロフィー、多発性硬化症、外傷性脳損傷などの疾患における組織損傷の進展と修復に関与するプロスタグランジン (PG) D₂の役割を分子レベルで解明することである。さらに組織損傷部位でのPGD₂産生を触媒する造血器型PGD合成酵素 (H-PGDS)の選択的な阻害薬を用いて、新たな病態進行の抑制方法や治療薬の開発を目指している。

阻害薬の開発には、H-PGDSのX線結晶構造に基づいて候補物質を分子設計し、化学合成を行った。候補化合物の薬効は、H-PGDS精製酵素や H-PGDS発現培養細胞およびヒト型H-PGDS大量発現トランスジェニックマウスを用いて比較し、H-PGDSに対して選択的かつ強力な阻害剤を効率的に選び出した。選択した阻害剤の筋ジストロフィーに対する治療効果をmdxマウスを用いて調べた。小動物用X線CT撮影装置を用いて投与前後の壊死体積を非侵襲的に測定すると、投与群では投与前に比べて統計学的有意に壊死体積が減少した。一方、溶媒投与群では投与前後で壊死体積に有意な差は認められなかった。さらに、小動物用の筋力測定装置(トラクションメーター)を用いて筋力を測定したところ、投与群では統計学的有意に筋力が回復することが判明した。また、分担研究者(国立精神・神経医療研究センター神経研究所)が保有する筋ジストロフィー犬に対する阻害薬の長期薬効試験を行ったところ、阻害薬投与は、副作用を示すことなく、明らかな病態の進行抑制効果を示した。

実験動物の壊死領域の定量には、アロカ株式会社と共同で開発した小動物用X線CT撮影装置を用いた。これにより、非侵襲的かつ同一個体で持続的な評価が可能となった。更に、Proof Of Concept (POC) studyのため、HPLC-タンデムマススペクトル法を用いたPGD₂代謝物 (tetranor-PGDM)の微量定量法を確立し、mdxマウスと筋ジストロフィー犬の尿中代謝物を測定した。その結果、これら筋ジストロフィー病態動物の尿中代謝物は健常動物に比べて統計学的有意に増加していた。さらに、筋壊死の拡大を抑制し、筋力の回復を認めたHPGDS阻害薬投与により、尿中PGD₂代謝物量も有意に減少した。mdxマウスを用いて尿中PGD₂代謝物量と壊死体積の相関を調べたところ、良好な正の相関を示すことから、尿中PGD₂代謝物 (tetranor-PGDM)が、筋ジストロフィー病態の新たな診断マーカーになる可能性を示した。

一方、H-PGDS阻害剤の多発性硬化症に対する効果を調べるために、実験的自己免疫性脱髄 (EAE) モデルの作製と投与実験を行ったところ、新規阻害薬はEAE病態の進行を有意に抑制した。

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小動物用X線CT撮影装置

組織化学染色や色素漏出量の定量など既存の筋壊死の評価方法では、阻害剤の治療効果を持続的に追うことができない。そこで、我々はアロカ株式会社と共同で、小動物用のX線CT撮影装置を開発し、同一個体の同じ筋肉の病変部分を、非侵襲かつ持続的に追跡する方法を確立した。

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研究内容

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